錯覚との闘い

ゴルフコースをラウンドしていて、ときに陥る【罠】がある。
たとえば、ユッタリと右にドッグレッグしている広いフェアウェイの前方やや左サイドに並ぶバンカー群を見て「なるほど、このホールは前方左サイドのバンカーを避けて右方向へとクロス気味に打っていくホールだな」という攻略を立ててみれば、そのティーショットが完璧であればあるほど、どうにもならない2ndショット地点に見舞われてしまったり。また、ティーショットで良いポジションを確保した2ndショットを打つときに、グリーンに立っているピンが、その距離のわりにどうにも遠く感じてしまったがため、好いショットを打てば打つほどピンを大きくオーバーしてしまうことなどである。
これは、そのホールを設計者が設計する際に施した絶妙なランドスケープから生じる『錯覚』という名の罠だ。
このように優れたゴルフコースでは、ところどころに巧妙な罠が仕掛けてあって、その罠を情報として知っておくことはもとより、練習で培った技量や自信などを以て乗り越えていくことも重要な『ホール攻略』となる。つまり良いスコアを出すためには、様々な情報を処理していく力量が問われるわけだ。これこそゴルフが、歩くチェスと呼ばれる所以でもあるだろう。
ところが『ゴルフの錯覚』は、コースをラウンドしているときばかりに現れるものではなく、己のスウィングにも現れるから厄介なのである。

『実際の動きと自分自身で感じている動き(動きの感覚)は、必ずしも一致しない』

スウィングを敢行するにあたり、こう動いているつもりが全く逆の動きとして実際のスウィングに現れてしまう。一つの動きに対して二つの観点が生じるとも言える極めて不可解な現象が、この『実際の動きと自分で感じている動きは必ずしも一致しない』というゴルフ特有の現象であり、古来より、多くのゴルファーを脱出不可能な迷宮へと誘った恐るべき錯覚なのである。
スウィングレッスンでは、この『実際の動きと感じる動きは必ずしも一致しない』という錯覚を埋める作業、すなわち『実際』と『感覚』のギャップを埋める作業が非常に重要となる。これは、クライアント(受講者)との綿密なディスカッションなくしては決して解決を見るものではない。なぜなら、彼らの意識のなかに根強く存在している『感覚』が、正しい動きを行わせてくれないという『実際』を引き起こしているからだ。

山で遭難したときに、あなたは沢を探すなり、下へ下へと下降するだろう。下には町があるし、あなたには常識的に極めて正しい判断だとの自負もある。しかし途中で考えるはずだ。さて、自分は降っているのだろうか?登っているのだろうか?と。ところが山育ちの人間は、先ず高いところに上がろうとする。それは、見晴らしの良い高いところに上がって、自分が何処に居るのかの情報を得ようとするのだ。
ゴルフが上手な人も同じことをする。たとえ遠回りをしようとも、まずは客観的情報を把握しようとする。我々レッスンプロ(コーチ)は羅針盤だ。

結局、錯覚から生じる【罠】の正体は、じつは、あなた自身が、自分自身の枠(常識)から踏み出せないだけのこと。
心の格闘技とも呼ばれるゴルフは、自分との闘いであることは然り、同時に錯覚との闘いでもあるということを忘れてはならない。

 

 

【Gスタジオ&合田洋ゴルフクリニック】